こう太のコーヒーとか

100 やわらかな矛盾

たとえば歯を磨いたあと、すぐにまた、コーヒーが飲みたくなる。
できるだけ苦いコーヒーが飲みたい。やさしさや甘さを、ぼくの身体に取り入れたくはない、これも比喩だった、大人になりたい。
やわらかな矛盾が、目に耳に手のひらに落ちて、ぼくは、部屋は、暗いままのほうがなんだか、ちょうどいい気がする、とおもった。

ひとと比べられるのがきらいだった。
きらいだったくせに、ひとよりも褒められるためにがんばったり、したんだ。
コーヒーの香りは、ときどき、ぼくを日常から逃してくれる。
帰りたくない場所だって、あるし、いますぐに会いたいひとだって、いる。
じぶんの気持ちをこうやってここに切り貼りしていると、じぶんの気持ちがどんな色や形や温度をしていたのか、わかるようにもなるけれど、やっぱり、わからないことのほうが多い。
どこかに行きたいのか、ただ生きたいのか、たしかにわからなかった。
空想するように、コーヒーを飲んだ。あたかも、じぶんには関係ない未来を傍観するように。

100 やわらかな矛盾 そして歯を磨く。
かぎりなくゼロに近い数字を、やさしさを甘さを、そして愛を、忘れながら。
これも比喩だった。
子供の頃はもうすこし、さみしかった気がする。

文:山本こう太note
絵:kaori

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