きょうは、一回もなにも思い出さなかったから、疲れたし、はやく眠ろうとします。
眠れなくても、横に、なっているだけで、体は休まるんだよ、と、教えてくれたのは、母でも父でも、ない。
ひとりだけで、ここにいると突然、からっぽにもなれた気がして、そうだ、このまま、このまま、遠い国まで行ってみたい。あと、友達にも会いたい。
首だけで返事をする毎日、見たいものも、見たくないものも、見てしまう、だれにも言えない秘密なんてひとつもなかったはずなのに、いつのまにか、言葉を選んでは、泣いた。
かなしいことがあっても、べつに生きてこられたからなあ。
良くも悪くも、立派に育つことができなかったぼくを、抱きしめてくれたひと、叱ってくれたひと、諦めてくれたひと、みんな、同じくらいの声の大きさで、ぼくの名前を呼んでくれました。
だからかなしいことがあっても、べつに。
表現の仕方をまちがえて、かたむいた三日月に座りこんだ。
そのまま、ゆれていたのかな、深夜、大切なひとを思い出した、思い出した、とたんに眠ってしまったよ。
詩が、うごきだした。
真っ暗な空のなか、月が綺麗だね。
このこころにもいつか、大切なひとを抱えて、眠ろう。
おやすみなさい。
文:山本こう太
絵:kaori