夢はありますか、聞いてみてもなにも返ってこないのは、ここが海の底だからでしょうか、水面から明るい陽がこぼれ、落ちて、ぼくの持ち物になるとき、この身体は何色に光るべきなんだろう、こだまする。
その目の先に、誰々が生きていて、声を吐き出してくれた、じぶんのためだけに生きていて、じぶんのためだけに生きることに必死で、ここは、そういう深海だったなあ。
たとえば独り言をいうみたいに、さみしさは、ぼくを何色にうつしてくれる。素晴らしいや美しいを、数えてみても、ゆらめくように、変化をたのしむように、たしなむように、見たこともないぼくに、何度も出会いにいくよ。
光の正体が、誰かからの視線であったとしても、きっと、同じことだ。見つめられて見つめられて、ぼくたちは育つし、生きる。大きくも小さくも、なりゆく命なのだ。
夢はありますか、聞かれたところでぼくはとっくに、もう夢を叶えてしまっていたのかもしれない。
特別なことではないけれど、海の底は、たしかにしずかだったと思う。でもこの、しずかな世界のなかで、ぼくは大切な言葉を見つけました。
こだまする。ぼくはおとなになりたかった。
文:山本こう太 絵:kaori